お客様が書き留める建築日記-その6-【全9話】

この文章は、土地選びから竣工まで、建築当時のお施主様のさまざまな率直な想いを書き留めて下さっていた『建築日記』です。今回は、「自然の音に耳を傾ける家」のご主人さまの文章(2013年1月〜2013年5月)をご紹介します。

目次

第1話「そうだ、家を建てよう!」

ささやかな小さな土地を、ぴったり気の合う伴侶と共に今後の半生を過ごす場所に決めた。
そこに建てるこじんまりとした家を、グッディーホームズさんにお願いすることにした。

思いつきで家を建てるような粗忽者のフォローは、大変くたびれる仕事だろう。
店長の田代さん、建築プロデュースをしてくださる近藤さん、素敵な壁紙や調度品を工夫してくださる堂本さんには面倒ばかりをお願いして、相棒にはしばしば教育的指導をされた。
打合せのたびに、素敵な笑顔でsmall’n cozyに招き入れてくださるブログ担当の齋藤さん。僕らとはジャズ好きという点で繋がっているみたいだ。

凸凹コンビの我々と素晴らしいグッディーホームズの皆さんで、ちょっとずつ進めていったストーリーがそろそろ形になってきた。そんなタイミングで僕らの家作りの顛末諸々、身の程知らずに駄文を書かせて頂くことにした。しばらくでもお付き合いいただけたら幸いです。

ご機嫌なバップサウンドを聴きながら思いつく。そうだ、家を建てよう。
2012年6月20日の今夜は赤坂のジャズクラブで、日本を代表するJazzトランペッターである村田浩氏のバースデー・ライブ。氏は大ベテランでかくしゃくとしたチャンジイ(失礼!)であり、僕は間もなく40代を卒業しようかというところ。奇しくも誕生日が同じなのだ。

ところで、家を建てるということは本来もっと夢があり逡巡もあり、不安に打ち勝つだけの周到さもあるに違いない。世間一般には一大イベントであるはずだが、我々にはそんなプロセスがちっとも見当たらない。
二人して暢気なものだ。とは言え、隣の席で膝を揺らしている僕の相棒からは、これまでもさんざん意見されてきた。
「ねえ、お家を買ったほうがいいよ?」。
気持ちはわかるのだが、どうにもボヘミアンな気質が抜けない僕は、なんだかんだと理屈をつけては仮住まいを決め込んできたのだ。

ところが三浦半島にしばらく暮らしているうちに、その生活にすっかり魅せられている自分があった。
海があり、緑に恵まれ、小高い丘と丘の連携が大地の表情を豊かにして素晴らしい。よく晴れた朝、ミルクのようなガスが斜面をたゆたう様子は魂を解き放ってくれる。そしてとんびが青空を悠々と旋回して、高く長く鳴いている。
小さな赤い自動車で新旧いくつもの隧道を走り抜けると、やがて葉山・逗子の爽やかな海風が頬を撫で、潮の香りが鼻腔を満たし、湘南ビーチFMからは懐かしい80年代のポップスが流れてくる。Eaglesが、Chicagoが、Doobiesが、ユーミンが、達郎が、湧き立つ夏の白い雲のように、青春時代の憧れのような感情を呼び覚ます。
「お前の人生はもう折り返し地点だ」。 ~Take it easy~ ここからが醍醐味だ!

そうだ、小さくてご機嫌! “small’n goody” な家を建てよう。
緑が萌える裏山を借景にして、入道雲にとけこむ真っ白なサイディングの家がいい。
海まで続く一本道があればいい。
いくつかトンネルを抜けてたどり着く市場があればいい。
そんな思いがぼんやりと浮かんでからその夜床に就くまで、頭の中ではJoy Springがずっと鳴っていた。

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第2話「マンションか戸建か、中古か新築か、それが問題だ」

さて、第2話からは、住まいの購入に踏み切ってからグッディーホームズさんにお願いして家が建つまでを順に書き進めようと思います。

横須賀の凸凹コンビの思いつきは、まさにお花畑のお目出度さ。
小さいながらも一国一城。
たどり着くまでには越えるべきハードルがいくつもあるのです。二人はインスピレーションの通りに素敵なお家を手に入れることはできるのか。この後、いったいどうなってしまうのか!?

たとえばしばしば出張の機会があって、行く先々はどこもそれなりに好きになる。
あちこち知らない街を訪れては、お父さんとお母さんが二人だけで切り盛りしている赤提灯、近所の旦那衆の憩いの場にお邪魔して語り合う。なんていうのは、まことに具合がよろしい。実に楽しくも豊かな一時である。

しかしながら「ずっとそこに住め」となるとどうも違う。
フーテンの寅さんがヒーローな僕にとっては、どこもそれなりに良いところではあっても、「帰ってくる”とらや”がなくっちゃ困る」となる。「自分の”とらや”」がなかった僕は、とにかく半生において住まいの購入を一顧だにしてこなかったわけである。突然買おうと思い立ったところで右も左もわからない。

そこで手始めに中古マンションを検討することに。
まあ、二人で暮らしてプラスアルファのワン公一匹くらいなら、70平米~80平米もあればおつりがくるぞと。その辺に建ってる居酒屋を居抜きで買って商売を始めるようなものだろうと、たかを括って不動産屋さんに出向く。
「どんなお住まいをお探しですか?」
「えーと、このあたりで80平米のをひとつ」
「は?」
という体たらく。

これは冗談としても、予備知識ゼロベースで、築年数は10年以内でないと設備がイマイチだとか、いやいや海が近すぎると津波が怖いとか、テラスはこんなとか、坂道は歳になるときついぞとか、大急ぎで条件を固めてググってみる、電話かけてみる。
ところが当初お手頃に思えた中古マンションは、積立て金だの固定資産税(これらは一戸建てでもかかるが)だの駐車場代、管理費とか、願いましてはで積み上げていくと案外高くつく。うーん、これでいいのだろうか。

待てよ?これなら中古の一戸建てを買ってもさして変わらんぞ?
家は古くなって遠い将来お払い箱にしても、子供の世代へ土地が残せるってメリットもある。このところ大きな不安の種になっている大震災で、万が一ぺちゃんこになっても、地面があれば最悪掘っ立て小屋を自力で建てるって方法もある。

じゃ、ちょっと中古の戸建を探してみようかしら。かくして我々は街の不動産業者さんにあたって、実際にあちこちを内覧してまわることに相成った。
ところが中古であるからして仕様は少々古い上に、建売りはお仕着せの部分も否めない。たとえ元が注文住宅であっても、当然他人の都合で設計した間取りや造作である。
いやいやそれだけじゃあない。徹頭徹尾都合どおりにしたならまだしも、だいたいは妥協の産物だと思ってよいだろう。

かくして、どうにも自分達のスタイルには合わないという現実に直面し、何も考えていなかった割に実は案外注文が多いという自分達の我が侭ぶりを自覚することとなる。
そしてマンションの比でなく悩ましいのがリフォームの話。
お手頃価格、なおかつなんとか我々のセンスの許容範囲にある物件を探した結果、新しいものでも築15年くらい。うーん、このあたりの年式はあっという間にリフォームのタイミングが来るし、コストもかさみそうだ。これじゃあ中古マンションと同程度のコストパフォーマンスにはならない!

待てよ?であるなら新築の一戸建てを買っても良いのではないか?
多少コストアップはするだろうが、上がった分のメリットは充分返ってくるんじゃないか。
だってそうじゃありませんか。新築でしっかりとした一戸建てなら、ちょこっとした修繕は免れないにしても大規模なリフォームまで30年か、いやひょっとすると35年かそこらは引っ張れるでしょう?その頃には、我々は墓穴に片足か、場合によっては両足を突っ込んでいるかもしれない。
鬼籍に入るとなれば金輪際お足はかからない。じゃあそのリフォームにかかるであろうお金を最初に突っ込んでしまうと思えば、、、新築一戸建てとあんまり変わらないじゃありませんか。なにかもう、持ち前の「なんとかなる」精神と言うかオプティミズムと言うか、いい加減さがむくむくと首をもたげてくる。これで良いのか、、、良いんです!

ということで、今度は建売りの新築物件を色々紹介して頂いて見てまわることにした。
おー!新しいぞ、木の匂いがするぞ!耐震等級が2だぞ!そして驚いたのは思っていた以上に標準装備している設備一式の質が良いこと。
玄関は案外広くて下駄箱も大きく洒落ている。輸入玄関ドアもなかなかの雰囲気で、気分を盛り上げてくれる。フローリングも今時なシャビーシックの白っぽい塗装で、相棒の目がぴかぴかしている。バスルームに液晶TVやサウナミスト機能は当たり前。システムキッチンは人工大理石にビルトイン食洗機の仕様。パネルだって鏡面仕上げでなかなか上等だ。小屋裏は孫でもできれば秘密基地になること間違いなし。防犯シャッターも付いていれば窓にワイヤーも仕込まれている。玄関は電子ロックだったりセキュリティー面でも安心仕様で至れり尽くせり。

しかし、場所が、場所が、、、
駅からバス25分+徒歩15分で、鶯が鳴いているという素晴らしさ。いや、鶯に罪は無いし、僕はむしろそういう環境が大好きだ。しかし、これではまだサラリーマン現役フルスペックを10年残している立場としては、通勤が辛すぎる。駅ちかにすると当然お高くなるので財政が許さない。

そして、そのうちだんだん気になってくるのだ。
ここはこの家が建つ前ってどんな土地だったんだろう。建てた会社の名前は見れば判るけれど、実際どんな工務店のどんな人たちが建てたのだろう。愛情や情熱をもって仕事をしたのだろうか。
リビングの位置ってこうでいいんだっけ?
バスルームの広さは、本当はもっとほしいよね?
液晶TVがあっても実際に湯船に浸かりながら見るんだろうか?
小さくてもいいから土いじりができるお庭がほしいって言っていたよね?
あれ、なんか前よりサッシがちゃちに見えるよ。
あれ?あれ?あれ?

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第3話「Jazzの風に乗って~smalln’cozyへ」

持ち前の楽観主義を発揮して、遂に新築の一戸建ての購入を決意するに至った我々であったが、いくら安くあげてもそこは新築。
どうしたってまとまった予算が必要だ。手持ち資金はお世辞にも潤沢とは言えず、この歳で大きな借入れを作るとなると気が重い。
さはさりながら凸凹コンビの凸の方は、好景気であっても上がらず、不景気でも下がらずと、どちらかと言えば変化に乏しい安定指向な職業柄である。現役ラストスパートの短期決戦は望むところだ。
「ここぞというときの兄貴の異様な集中力は人類のそれとは思えない」とは、我が賢弟の弁である。10年間での健全な返済計画は果たして立てられるのか。新築一戸建てを手に入れる決意を固めたものの、日増しにつのる建売りへの疑問。この後、いったいどうなってしまうのか!?

さて、建売りに疑問を抱けば、次は注文住宅を調べることになる。
僕個人がイメージしていた注文住宅というのは、TVのCMでやっているなんとかの森とか、売れっ子少女アクトレスがイケ面彼氏候補と絡んじゃうあれとか、プレステージの高い正しいパパとママが作るお家だ。

我々のような一般の規格に外れたチームには縁遠い印象があるものの、ローコスト住宅が台頭しつつあることも知っていた。ローコスト住宅の走りとして有名なA社や、2つのブランドを持つSS社など、いくつかの間取りタイプが用意されていてある程度の選択肢が楽しめるラインからセミオーダー、完全な自由設計とメニューはかなり豊富だ。
また、家を建てる場合は土地と建物を全て一社に依頼するケースが多いようだが、セパレートに調達する方法もありだ。我々は建物よりも住みたい土地に対するイメージが突出していたため、土地と建物を別々に選択する戦略を選んだ。

後々知ることになるのだが、この方法は当然2箇所に仕事を依頼すことになるので、主に手数料についてコスト効率が悪い。結果的にはとても満足しているのだが、これから家を建てる場合は気に留めておくとよいだろう。

土地については相棒行きつけの、美容院のオーナーさんの口利きで、とても熱心な不動産屋さんを紹介して頂くことで順調に進めることができた。
ハウスメーカーで経験を積んだ、若々しい社長のU氏がいくつかの候補地を選んでくれた中から、イメージにも予算にもぴったりの、僕らにうってつけな小さい土地が見つかった。まだ一般に売出しをかける前の宅地造成地で、県道から一本入って全部で10軒程度が建つであろうエリアだ。

葉山の小さな山を背負い、緑豊かでとても長閑である。この段階では雑草が伸び奔放に繁茂し、ブロッコリー畑ですか?という風情であるが環境は申し分ない。
U氏は何の知識も無い我々に色々なことを教えてくれた。ご縁はなかったものの、懇意にされている工務店さんも紹介して頂いた。
融資についても銀行との事務手続きなど、何かと力になっていただいた。
ありがたい話である。人の繋がりはこういう場面でも大いにモノを言う。
U氏の事務所で土地契約の事前打合せを終えたのは、恒例の横須賀JAZZドリームスをノリノリで楽しんだ晩のことである。
後日手付け金を支払い、銀行融資もトントン話で進めることができた。

並行して進めた建物の調達は、ローコスト住宅の自由設計がどのようなものなのか調べることからはじめた。
いわゆる昭和な感覚の僕は、「家を持つということは同時に色々な問題を抱え込むのが世の常であり、これすなわち厄介事である」くらいに思っていた。ところが法整備が昔とは比較にならないほど進んだこともあって、耐震性の向上やシックハウス対策、断熱をはじめとするエコ対策、防蟻処理やアフターサービスなど随分と諸状況が整っている。

ハウスメーカーにより表現は様々だが、そうした基本事項はどこも一通り押さえていた。彼らの業態は、本部がビジネスロジックを定め、企画運用や代表窓口として機能し、個別の建築案件と現場の取り回しは地域の工務店が支えるというFCの形式である。
従って、最終的には工務店の当たり外れにより家のクオリティーが大きく左右されるということもわかった。ローコスト住宅のハウスメーカーは夫々が自社の特徴をうまくプロモーションしていて、セールスポイントはかなりハッキリしている。
そうした情報を仕入れる過程で、自由設計の注文住宅の世界が様変わりしていて、我々の手に届く場所にあることが知れたのは大きかった。

実際に土地に合わせて自由設計をしてみるとどんな感じになるのか、試みに簡単な設計イメージを作っていただくなど確認もしてみた。
「シンプルモダンって言うらしいよ、これ。」
「標準装備は、今まで見てきた建売りのレベルは確保できるし、間取りも自由でなかなかいいよ。」
暇を見つけては営業さんとやりとりをして資料など準備してきたのだが、どうも相棒の反応がよろしくない。
「可愛くない」
「お洒落じゃない」
「イメージが違う」etc…具体性には乏しいものの、とにかく気に入らないということだけはわかる。
僕としては異様な集中力を発揮しつつ、制約の範囲内で頭から血が出るほど悩んで悩んで、自ら間取り図を描いたり悪戦苦闘しているわけであるが、手詰まり感はあるわのんびりしても居られないわですっかり意気消沈である。

が、そんなある日のこと。
「ねえねえ、ブルースホームっていうのがあってとても素敵なの、ここを見て!」とメールが届く。
お、やっこさん何かブレークスルーを見つけたのか?とPCに向かってURLを叩く。
やっ、これはまたずいぶんセンスの良いHPだぞ。ふむふむ、、、目に飛び込んできたページには「輸入住宅」の文字が躍る。がーん!何を考えているんだ、輸入住宅なんて手が出ないに決まっているだろう!?寝言は寝てから・・・・え?なになに?「1,580万円から」ですか?
これにはたまげた。
自由設計の輸入住宅が「1,580万円から」。この「から」にかなり引っかかるものがあるのだが、本当ならばスゴイことだ。ローコスト住宅メーカーの見積り一式と照らし合わせてみると、大きな差のない事が確認できる。
とにかく一度話を聞かせてもらおう。

早速コンタクトを取ったところ、すぐに土地の確認に走ってくださったのが営業担当の田代さんだ。僕は話が早い人が好きである。
「裏山には緑が多く、弊社の建物に合うと思います。」
「プランニングで工夫しましょう!」と、なんとも心強いリアクション。
次の日曜日に顔合わせの約束をした。

こうして、始めて素敵なsmall’n cozyを訪れたのは、僕と相棒が横浜の老舗ジャズクラブ Aireginで知り合ったあの日と同じ、8月12日のことだった。

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第4話「ルビコン川を渡れ!〜前編」

折からのデフレと低金利に後押しされて、注文住宅が手の届く範囲にまで降りてきている。
この状況に励まされた僕は、自由設計による輸入住宅の建築を検討するという冒険に打って出た。男子がアドベンチャー精神を忘れてしまっては詰まらない。
そして、言い出しっぺの立場ながら不安な面持ちを隠せない相棒を伴い、蝉時雨の盛りにsmall’n cozyを訪れるのであった。戦略的には短期決戦の方針で、早々と手付けを打って土地は手配済みである。

土地建物ワンセットで銀行融資を受ける必要があり、のんびり構える時間の余裕もない。
果たしてHPのカタログにあった素敵なサイディングのお家は、質とコスト、センスにおいて優れたパフォーマンスを発揮し、三方よしとなるのか。「一式1,580万円『から』」のカウンターパンチを喰らい、あえなくマットに沈んでしまうことになるのか。この後、いったいどうなってしまうのか!

今日も素晴らしく暑い。
左手に海、正面に入道雲、潮の香りの風を切り、合わせる周波数は78.9Mhz、湘南ビーチFMだ。懐かしい70’sロックを聞きながら、134号線に沿ってナビを頼りに、横須賀から逗子、鎌倉を抜けて一路藤沢へ向かう。

グッディーホームズはどのような工務店なのだろうか。
これまで相談してきたのは、いわゆるハウスメーカーや、大手ハウスメーカーの下請け工務店だった。万人受けしそうで目立った減点ポイントがない無難な路線であったり、「何でも対応しますよ!」と万屋の体裁だ。
「住まいはこざっぱりとして快適であればそれで良い」ということならば適当な発注先であろうが、色々工夫をしたい買い手としては困る部分がある。特に「何でもできます」と丸投げされてしまうと、途端に何をしてもらいたいのか言い淀んでしまい、具体的な打ち返しができなくなってしまう。
こちらはズブの素人であり、ゆるくてわかりやすい、しかも魅力的で喰いつきたくなるようなボールを投げてもらえないとヒットが打てないのだ。
果たしてグッディーホームズはHPで見た通りに、しかも僕らにも3塁打が打てそうな球をやさしく投げてくれるだろうか・・・

可愛らしいピンク色をした花を咲かせた百日紅の並木道沿いに、グッディーホームズの建物が近づいてくる。
HPで見た通りでなかなか素敵ではないか。
表にまわると、まず目に飛び込んでくる印象的な看板がイイ。愛嬌のあるデザインながら、錆びた鉄の無骨な質感でバランスをとっている。
丸太を縦に割った土留めや、子豚レースができそうな囲いに芝生。飛び石をトントン踏んで歩みを進めるアプローチも素敵だ。蝉の大合唱を聞きながら開く大きなドアがまた素晴らしい。
ごくごく淡く、ピンク色がかった薄いナチュラルカラーの塗装が施され、無垢材の木目がハッキリ浮かび上がって大変上品な仕上がりである。それでいて重量があり、抜群の存在感だ。このドアを入ってその場に商談のための古びた机があり、フロアーは狭いながらも天井がドーンと吹き抜けていて、とても気持ちの良い空間だ。無垢の古木を使った板張りの床はみしみしと音を立て、新しい事務所に風格さえ漂わせている。

我々は、グッディーホームズの社屋に詰め込まれた建物に対する感受性とディテールを選び取るセンス、そしてバランス感覚の良さにたちまち魅入ってしまった。しっかり作り込むところと、逆にボロっちいとさえ言える年季や古さを愛でる感覚の同居とハーモニー。
僕は建築やインテリアのプロフェッショナルではないが、これはヨーロッパの造形アーティスト達が持っている感覚に近いものだと感じた。その昔、仕事で訪れたコスチュームジュエリーのデザイナー達がパリに構えていたアトリエには、まさにグッディーホームズのエスプリに通じるものがあったことを思い出した。

そして、迎えてくれた田代さんの営業アプローチにはガツガツしたところが微塵も感じられない。意匠担当の近藤さんは、小さな土地にあわせた水彩調の柔らかな色使いで、手描きの間取りイメージを用意していた。
会話のキャッチボールをする中で、ああしたらこう、こうしたらああなりますと、外連味のない仕事人らしい応対をしてくれる。「現場をよく知っているデザイナーだな」と率直に感心した。細かいところまでノウハウに裏付けられた配慮が行きが届いているのだ。
この人たちは、この業が、この会社が、この仕事が、本当に好きでたまらないのだな。そう思わせるオーラが見えて大いに好感を持った。相棒も同じ気持ちだ。

しかしそう手放しに喜んでばかりもいられない。
先ずは基本的なプランやコミュニケーションの流れと家作りの進め方などを聞かせてもらった。家作りの流れは一般的なハウスメーカーのそれと変わらない。
但し、ツーバイフォー若しくはその類型の工法を採用しており、建材も輸入しているせいか在来工法による工期よりも長めな印象だ。開始時期によるそうだが、我々の場合はザッと半年~7ヶ月かかる。桜の季節をぴかぴかの新居で迎える段取りだ。

次に、例の「一式1,580万円『から』(第3話を参照)」の正体を確かめるべく、オールインワンパッケージであるOREGON Stage1の内容を具体的に確認した。
果たして、国内ローコストハウスメーカーでは基本仕様に含まれていたYAMAHAレベルのシステムキッチンや、INAXクラスの洗面台ユニット、浴室のミストサウナや液晶TV、バルコニー、掃き出し窓の防犯シャッターなどはみなオプションである。
やはりカウンターパンチが飛んできたか、、、
しかし!田代さんがにこやかに付け加える。
「実は弊社の海老名店のオープンを記念して、オプション半額キャンペーンを打っています。」、「今月いっぱいで終了するのですが、月末までにご契約の意思表示を頂ければキャンペーン対象の取り扱いをさせていただきます。」。
こ、これなら行ける!チラシにあるオプション価格を目の子で計算して直感した。相棒はというと、隣にちんまり座ったまま事務所の造作をポーッとして眺めている。まさに恋する乙女だ。
もうグッディーホームズにお願いする以外には、この人の頭の中に選択肢はないのだろう。
だがしかし、僕としてはこのお花畑プロジェクトを成功に導く重責を担っており、あらゆる可能性を考え抜かねばならないのだ。

打ち合わせは長時間に及び、気がつけば真夏の戸外には夜の帳が降りている。
グッディーホームズの外灯には明かりが燈され、温かみのある佇まいが、暗がりにふんわりと浮かび上がっている。素晴らしいお家を建てたなら、こんな風に24時間我々を楽しませてくれるのだろう。
帰りの車中、二人は興奮の面持ちで、「お願いするなら是非グッディーホームズにしたいね!」とあれこれ語り合いながら家路を急ぐ。
その一方で、僕は頭の中で必死にそろばんをはじくのであった。

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第5話「ルビコン川を渡れ!〜後編」

さて、グッディーさんへの依頼を真剣に考えるにしても、どんな仕様のお家が作れてどの程度のお金がかかるのか見えなければお話しにならない。
第1回目の打合せの内容を反映した間取りの図面をメールで送っていただいたので、近藤さんの手描きのイラストと合わせてあれこれ考えた。

山を背負っているので日照時間が短い。とにかく光が必要だ。よって2階にリビングを配置して、南側に大きく窓をとることにした。
近藤さんの提案で、南に面したリビングには小さな切妻をこしらえて、そこに雰囲気のある半円のドーマーを配置する。採光というテクニカルな要求に対して、プラスアルファを添えた提案をする彼女のセンスは抜群である。そのドーマー通して届く光を室内一杯に満たすため、思い切って勾配天井を採用した。その一番高い場所で、我々の憧れの世界ではマストアイテムであったシーリングファンも回したい。

そしてダイニングキッチンだ。勾配天井の下で、リビングに隣り合わせて一体的に作ろう。キッチンカウンターは南向きで作業ができるように配置して、半円のドーマー越しに豊かな緑がしっかり見えるように。気分が良くなって、きっといつもより一品多くこしらえてしまうことだろう。
リビングダイニングキッチンともなると、やはりちょっとした手を洗うようなスペースもほしいよね?客人に1階に下りてくれとか、まさかキッチンのシンクで手を流してなんて言いたくない。そこで、ダイニングスペースの近くに窪んだ場所を準備して、素敵な花柄をあしらったペディスタルシンクを設置することにした。小さな裏庭に咲くような、可愛らしい小花模様だ。リビング階段を上りきったところにあたるので、ここには素敵なペンダントライトも吊ってみたい。

ところで、リビング階段にするかリビングドアで仕切るか、実はかなり迷った。間仕切りがなければ1階から2階に風の通り道ができて、きっと冬は寒い。冷え性の女性には堪えるだろう。しかし田代さんや近藤さんと話しているうちに、高気密性の住宅なのでそこまで気にする必要はないという結論に至った。

リビング階段は見た目にも素晴らしい上に、スペースを広く見せる効用も期待できる。階段には縦にポールが入った手すりを付けて見通しを良くしよう。手すりにあたる笠木と階段の濃い茶色をトリミングに、ずらっと並んだ真っ白いポールが挟まれ、きっと素晴らしいアクセントになる。

2階の南側には、往々にして北側に追いやられてしまう和室も設えて、狭いながらも日当りの良いリラックスできる場所を作った。収納スペースがあまりとれそうもないので、ここに小屋裏もつけた。
山を背負うのはデメリットばかりではない。マイナスイオンが降り注ぐ緑豊かな裏山を借景に、椅子2脚に丸テーブルが置けそうな屋根付きの小さなバルコニーを作って、ちょっと素敵なカフェテラスにしてみよう。和室とバルコニーは相棒の強い希望によるものだ。

さて、2階には色々と詰め込んだが、それでも2畳分ばかりの小さなスペースが残されている。考えた末、ここには小さな小さな書斎を作ることにした。
壁紙や照明プランでお世話になる堂本さんに教えて頂いたが、書斎はDENと呼ぶらしい。直訳すると「動物のねぐら」。まさに僕や相棒が読書や書き物で篭るのに相応しいイメージで感激だ。ここも勾配天井にして狭い空間に広がりを持たせよう。狭い空間が高い天井によってガラリと印象を変えるのは、small’n cozyの商談スペースで確認済みだ。
窓の外には水色に塗装したアンティークのルーバーを取り付けて、木製のフラワーボックスも設置したい。晴れた日の午後は、陽射しに溶けたルーバーの水色が反射するこの空間で、いつまでも過ごしていたくなるだろう。これもグッディーさんの社長室の雰囲気にヒントを得たものだ。

1階には夫婦それぞれの寝室を配置する。日照が不足しても、どうせ寝るための場所である。割り切ってしまおう。相棒の寝室からは、掃き出し窓を開けて小さなお庭にアクセスできるようにする。庭作りは僕の将来の楽しみに取っておくつもりだ。
自然が大好きな我々は、葉山の山々や川や木立ち、そして海と、溢れる自然の恵の中で、自転車に跨りのんびり遊ぶ暮らしがしたいと以前から思っていた。玄関は自転車を入れてもお釣りがくるくらい大きくしたい。ちょこっと座れるベンチを置けば、ちょっと届け物に寄っていただいた方に腰掛けてもらえて具合が良いだろう。

将来どちらかが、ヨタヨタになった相方を世話をするにも苦労の少ないように、浴室もまた標準より大きくしたい。
洗面台もゆったり幅広なタイプが良い。大きな素敵なミラーを吊るして、可愛らしい椅子に腰掛け、ゆっくりと髪を乾かせれば、相棒は入浴のひと時を快適に楽しめることだろう。そうそう、ついでだからアメリカのTVドラマで見たと言っていた、寝室から直接アクセスできる洗面室にしてもらおう。お風呂でリラックスして温まって、そのまま寝支度をして寝室に戻れるならば、来客があっても気にする必要はないだろう。朝だって、起き抜けを見られることなくシャワーに直行したい乙女心はわからないでもない。

オプションから選んだのは既にお話ししたように、先ずは勾配天井。
2階の全面はなく、キッチンカウンターの上までで一端切って垂れ壁にしてみた。こうして起伏を作ることで、室内の傾斜や曲がり角の陰影による光の彫刻を期待している。勾配天井は最も高い位置で軽く4mを越えており、恐らく床面積以上の広がりを演出してくれることだろう。
そして小屋根裏についてもお話しした通りだ。畳2帖分程度のスペースがある。
浴室の拡張もオプションだ。日々大きなお風呂でゆったり湯に浸かれば、リフレッシュ率が倍増すること間違いなしだ。

そしてフロアーは30mm厚の無垢のパインの床。分厚い無垢のパインの床の上を履物なしで歩いてみると、なんとも言えない温もりが足裏から伝わってくる。
一般的なハウスメーカーでは、無垢の床は反ったりきしんだりで大変だと言われるのだが、むしろあのみしみしと音を立てる感じがたまらないのだ。2箇所のトイレの中まで全部やってしまおう。
ちょっと意外だったのがトイレの換気扇がオプションということ。当然必要だ。また、TVやインターネットなどの配線、ガス栓についても、今時のマンションや建売りの場合各部屋には当たり前に備わっている。これらは標準仕様では最低限しか付いていない。まともな設備にしたければオプション対応が必須だ。

ところで、グッディーさんではキッチリした設計に踏み込むまでの対応は無償だ。
気が済むまであれこれ質問すれば、丁寧に情報提供を受けたり説明してもらえる。これがしたい、あれもしたいと希望を出して、参考に図面を書いてもらうことだってOKだ。

ただし、大きな資本を背景にしたFCの対応とは差がある。たとえば、参考に間取りを提案してもらう場合、CADによる3Dイメージは出てこない。大手ハウスメーカーの下請け工務店でも無償対応する範囲であったことを考えると、立体イメージが確認できないのはお客にとってマイナスだ。これは建築契約の締結後も変わらず、つまり設計の面で自社内のIT化に資金投下をしない方針なのだろう。
もっともその不自由さを補うだけの別の強力な訴求力を持っていることが、グッディーさんを彼らたらしめている所以である。

プランを具体的にイメージできなければ、ストレートにそのように言えば良い。彼らは手描きしたり様々な方法で工夫をしながら、納得するまでつきあってくれるはずだ。家作りが、お客と一緒に創作をしていくことが、三度のメシより好きな人たちなのだから。

さて、銀行と融資契約を締結するには建築する家の図面が必要で、期限が迫っている。
こちらが短期集中戦を希望しており、グッディーさんはこれに引きずり込まれた格好だ。

無理を押して押してまた押して、8月21日にはお家の原形が決まるまでに詰めていた。
早い早い、あっという間である
(ストーリーとして読みやすくなるように時系列の前後関係がずれている。実際ここまでディテールを具体的にイメージした形にせずとも、施工契約や銀行の融資の契約までこぎつけることは可能なことを書き添えておきたい)。

この時点で、グッディーさん以外のハウスメーカーに家作りを依頼する理由がまったくなくなっていた。
「1,580万円『から』」にはそれなりに打ち返しがあって工夫を迫られたが、なんとかなりそうだ。
8月24日には本設計の契約を済ませ、銀行融資の本契約にも走った。

Past the Point Of No Return.かくして我々はおっかなびっくり、ルビコン川を渡るのであった。

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第6話「救世主ヨッシー現る」

二人の好きなものがたくさん詰まった空想の世界のsmall’n goodyが、二次元ながらもその実像を結び始めた。

シーリングファンが回る高い勾配天井にはドーマーを配置して、リビング階段もきっと素敵だ。分厚いパインの無垢の床板は足裏に温もりを伝えながら、ミシミシと音を立てることだろう。
煎れたての珈琲を片手に、小さな書斎の窓から見えるこんもりとした緑の山の眺めは格別に違いない。しかし我々のチャレンジは序の口も序の口、未だ着工前である。
もともと好きではあるものの、間取りの細かい詰めや、ガス配管・電気、TVの配線も決めなければならない。膨大な種類から壁紙を選んだり、床板や幅木、天井の廻り縁や窓のケーシングの塗装決めもある。照明や家具調度も吟味しなければならない。

右も左もわからずに走り始めた我々は、どんな手順が必要なのかサッパリわからず、頼みの綱は田代さん近藤さんペアーだけ。この後、いったいどうなってしまうのか!

さて、契約を済ませるとすぐに地盤調査が控えている。
葉山は地滑りする地勢らしいが、そばに県道が通っており、そのような幹線道路があるからにはある程度地盤は強固でしょうと、そんな楽観論もあった。しかしこればかりは掘ってみなけりゃわからない。

調査結果をどきどきして待つこと数日。已んぬる哉、やや軟弱な地盤と出た。鋼材を打ち込む本格的なものではなく、セメントミルクを流し込む柱状改良が必要という見立てであったのは不幸中の幸いだ。さらに、葉山は下水道の整備が遅れており、目と鼻の先は上下水道ありなのだが、残念ながら我が土地は浄化槽を設置する必要がある。地盤改良と浄化槽の設置にはそれなりにコストがかかるが、こればかりはどうしようもない。

グッディーさんにお願いした段階で間取りイメージはかなり具体的になっていたので、これを前提に家具を選ぶことにした。
先ずは奥様の寝室だ。輸入住宅にしたからには、それに合った家具が必要であろうと多少の予算組みはしてあった。無論僕は貧乏であるが、雰囲気が安っぽくちゃあいけない。米国の家具にしよう。存在感はあっても重すぎず、フェミニンでなくてはいけない。掃出し窓には欧州産の素敵な布地を使って、ボックスカーテンが必須である。
そしてもう一つある窓にはローマンシェードが似合うだろう。「そんなにあれこれ揃えてしまって大丈夫?」。相棒の心配をよそに、こうして我が妄想は雪だるま式に大きく育っていくのであった。

さて、自室はどういうイメージがよいか考えてみよう。そっくりそのままは無理だとしても、大好きな明治時代を感じる和洋折衷な感じがなんとなく好みである。戦艦三笠とか、秋山真之とか、艦長寝室とか、菊のご紋とか、横須賀の三笠記念公園でみたあれやこれが思い起こされる。贅沢は敵だ!だが手持ちの大きなベッドや、趣味の音楽の機材一式がしっかり収まるスペースは必要だ。

リビングダイニングではあるものの、リビング領域とダイニング領域は分けて考えることにした。リビングはトラディショナルなやや固めの、落ち着いたイメージが良いだろう。装飾をあしらったダークブラウンの家具を選ぼう。園芸雑誌などを片手に、お茶にクッキーと会話を楽しんだり、大画面の映画に固唾を呑むのはここだ。

そしてダイニングセットはややフレンチカントリーに寄ったエスプリがほしい。クリスマスに相棒が手間をかけて作ってくれる鶏の詰めものを並べたり、ブレドールの小麦の香り高いパリジャンとチーズに美味しいワインとか、そんな豊かでカジュアルな食卓ができあがれば楽しいだろう。経年加工したホワイトカラーがイメージだ。

構想(妄想)に基づき、僕はあちこちのサイトを見てまわった。輸入家具はきっと高価なのだろうと内心ビクついていたのだが、取り扱っている家具屋さんは想像した以上に多く、価格はかなり手ごろだ。
この世界にも革命が起きていて、流通経路の工夫や展示場の全廃、オンラインショップ化が急速に進んでおり、価格が急降下していた。おまけに空前の円高である。輸入住宅を考えている人間にとっては、今は良い時代なのかもしれない。手間隙はかかったものの、寝室、リビング、ダイニング夫々のイメージに適当な品物を見つけることができた。

しかし誤算があった。
地盤改良や浄化槽の費用に加えて建物にあれこれと注文をつけたものだから、当初家具類向けに確保していた予算が半減していたのだ。
お家を建てる場合、諸費用や家具調度などその他の出費がかさむことは当然念頭にあった。
我々の場合は、土地家屋のトータルコストに対して当初10%、多く見積もっても15%と見込んでいた。ところが建物本体側で費用が膨らんだため、唯一調整可能な家具調度品の予算が割りを食うことになったのだ。これには参ったが、この期に及んで肝心要の本体のオプションを削り取る気には到底なれない。さてどうしたものか。
こうして頭を抱えていた迷える羊を、天は見捨てなかった。

天は自らを助くる者を助くと言う。

揃えたい家具一式は決まっていたので、先ずは同じような業態で格安に輸入家具を取り扱っている数社に当たりをつけた。勿論、足を伸ばせる範囲は実店舗や倉庫があれば偵察し、遠方の場合は問合わせのメールやカタログ請求で探りを入れる。そのうち感触が良さそうな、米国の家具メーカーAsheleyの代理店であるワールドトレーダーズさんに白羽の矢を立てた。
そして、まとめて一社にお願いすることで条件交渉を試みた。

社長の吉田さんはとても物腰が柔らかく、腰の低い方で、対応が一々親切な方だ。
また家具に精通しており、輸入家具の業界にも長いため事情を熟知されている。見た目に変わらないモノでも、このメーカーのこれは作りがいけませんとか、的確な助言を頂ける。
我々の間では敬愛の情を込めて「ヨッシー」と呼んでいることは、吉田さんには内緒である。

二子新地から程近い事務所を訪ねて相談したところ、当初覚悟していた費用を大幅に下回る見積り価格を出してもらえた。また、納期に関する相談や、一時保管に便宜を図っていただくなど、安価に輸入家具を販売する企業としては凡そ考えられないほど、手厚くサービスする姿勢には感激した。そして驚いたことに、ヨッシーはグッディーさんを知っていた。
「弊社のお客様にはブルースホームさんで施工をされた方がいらっしゃいます」
「ブルースホームさんのFCとしては、グッディーホームズさんは恐らくトップの実力派だとお考えになってよろしいかと思いますよ」
との弁である。
あー、グッディーさんにして本当に良かった!
今回の小さなお家を建てようプロジェクトでは、こうして人に助けられることが多い。
ありがたい話である。Thank you so much, Yossy !

一方その頃現地では、、、
11月4日に予定している配置確認に向けて作業が進んでいた。

配置確認とは、「図面通りに配置計画がされているか」と、「実際の配置を施主が確認すること」だ。
この確認を経て11月10日の地盤改良工事(柱状改良工事)、11月12日~24日の基礎工事、そして浄化槽設置と配管工事へと工程が進捗するのだ。
配置確認の当日、相棒と二人で現地を訪問すると敷地に沿って紐が張り巡らされていて、「あー、ここに家が建つのか・・・」と、まったく具体的な実感の無い空虚な感慨を覚える。
それはそうだ、たんなる空き地に子供の陣地のようにマーキングされているだけなのだから。
「こっからここまではオイラのお家だよ」と、まさにそんな感じなのだ。

こうして僕たちは例年にはない大きなテーマを抱え、ゴールの旗も見えないまま、2012年の終わりに向かって二人三脚を続けるのである。

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第7話「もっと光を!」

間取りや基本的な造作など徐々に具体的なイメージが固まり、大きく育った妄想にぴったりはまる輸入家具も決まった。

またもや人に助けられ、予算不足を辛くも切り抜けていよいよ着工だ。
閑話休題、息抜きも必要だとばかりに、11月の配置確認に先立って僕がギターで参加している趣味のバンドのライブをちゃっかり敢行。50人以上のお客さんが入って、ミラーボールはガンガン回る。お客さんもガンガン踊る。横濱赤煉瓦倉庫の近所で夜更けまでノリノリである。お家作りもこんな感じでぐいぐい進んで行くと良いのだが、、、

しかしここまでおよそ4ヶ月間。
なんとなくうまく行き過ぎているようで怖くもある。調子に乗ってるんるんスキップしていると、きっとどこかに大穴が口をあけて待っているかもしれない。これからいよいよ佳境に差し掛かるお家作りはこのあと、いったいどうなってしまうのか!

家具が決まると内装のイメージが俄然固まってくる。これからお家を建てる人に是非検討をおすすめしたいのは、大雑把な間取りのイメージが決まったら先ずは家具を決めること。選んだ家具をどこに配置するかおおよそが決まったら、今度はそれに合わせて間取りを調整していく。我々の場合は、こうしてハコとモノを交互に詰めつつすり合わせをしていくことで、最終段階で大きく悩んだり手戻りすることがなかった。

照明も重要だ。当初は随分凝ったデザインの品物が増えている国産品や、輸入品のうち日本ではポピュラーなキチラー社の製品を検討していた。その一方で、先に手配に動いていた輸入家具を物色している間にも、米国の照明器具が嫌でも目に飛び込んでくる。
どれも素晴らしい。そして現地の価格がとても手頃なのだ。どうしてもほしい。何とか手に入れたい。僕の中でまたもや「あれがほしいんだ!」の虫が騒ぎだす。照明器具は関税が付かない。輸送コストさえ何とかなれば、これは個人輸入をすると大いに可能性が開けるのではないか。どこかに西海岸から横浜港まで飛んでくれる空飛ぶ絨毯は無いものか・・・

そんなものがあろうはずもないが、信じるものは救われるのである。知人がアメリカから船便コンテナーをチャーターしており、ついでだから載せてくれるというのだ。かくして、国内の商社経由で購入する金額の4分の1という破格にて、素晴らしい輸入照明器具を手に入れる算段がついた。
なんという幸運!
早速、米国内で目指す器具の取扱いが豊富な数社から見積もりを取り、対応の良し悪しも踏まえLighting&Locksという販売店からの購入を決めた。価格は充分に安く、カスタマーサポート担当のMr.Jerryのメール対応がたいへん親切であった。問い合わせには即座に返信してくれ、見積もりを出すのも速い。勾配天井の頂点から下げるシャンデリアのチェーンの長さを相談すると、本来は有料の追加チェーンを無料で手配してくれるという手厚さだ。

輸入の照明器具とは別に、国産品では手作りの職人芸で凝った照明を作っているコンコルディア照明も検討していた。11月には東京にあるショールームを訪問して様々なモデルを確認したが、どれも出来映えがよい。その中でも、やはり事前に目をつけていた2種類が特に素晴らしかったのでこれに決めた。

そうして12月には全ての照明器具の発注にこぎ着けた。さあ、手にするあのシャンデリアは、ブラケットライトは、ペンダントライトは、イメージした通りのものなのだろうか。思い浮かべるとワクワクするのである。インテリアコーディネーターの堂本さんには、先に調達の手配をした輸入照明器具やコンコルディアの照明だけでは、光を供給し切れない箇所に向けた提案も頂いた。たとえば大きな天井はそのままにしておくと暗がりになってしまうので、ピンスポットで照らす必要がある。シャンデリアは光が拡散して食卓に充分な光量を供給できないことから、ダイニングテーブルに向けたピンスポットも必要だ。やはり目に付かない細かい部分の詰めには、プロの目が欠かせない。

ところで照明器具の発注に先立って、実は大事件が勃発していた。

意匠について絶大な信頼を寄せていた近藤さんが、11月末日でご都合により退職されることになったのだ。これには我々も大ショックである。ほとんどの仕様や造作については既に決定済みであったのがせめてもの救いだが、なんだか戦友を失ったような、そんな気持ちがした。
近藤さんの役割は図面上の意匠のみに留まらず極めて大きい。プロ根性が据わっていて、施主の希望に沿ったもの、あるいは自分が提案したイメージにヒットするパーツをどこまでも追い求め、探してきてくださる。彼女は建物が組みあがってからも存在感を発揮する。ヘルメットを被り、勇ましく現場に乗り込み、ちょっとでもイメージと違う施工があれば容赦なく職人さんに調整を指示する。そんな方だと聞き及んでいた。平素の仕事ぶりや残されている施工の写真からも、その様子は十分に窺い知れる。

イメージと現場を繋ぐ、プロジェクトの大動脈なのだ。
現場は文字通り現場であり、雰囲気とかテイストとかイメージとか、そういう獏としたものとは本来無縁である。彼らは職人としての魂で仕事をすべきであり、それが正しい姿だ。ここに現場の事情も施主のイメージもわかった橋渡し役が登場することで、両者の関係は見事に完結するのだ。建築に限らず、プロジェクトというものはすべからくそういうものである。
この大動脈が外れたことは、実に、実に惜しいのだ。「百里を行く者は九十を半ばとす」とはけだし名言である。それでも、図面上で可能な全ての調整はやりきって頂けたことがありがたかった。
近藤さんありがとう、そしてお疲れ様でした。

さあ、気を取り直して張り切っていこう。
12月初旬にはほぼすべての仕様を確定する上棟前の打ち合わせを行い、12月中旬にはパネル工事が行われ、あっという間に大枠が組み上がってしまう。2×4の面白いところだ。このタイミングで、堂本さんからインテリアプランが郵送されてきた。
施主と正面から向き合った手作りの仕事で進めるグッディーさんらしい資料で、今まで詰めてきた内容が丁寧にまとめられている。初めてグッディーホームズを訪れてから5ヶ月目のことだ。

そして寒さが身にしみる12月下旬には、現地で上棟打合せを迎える。
ドーマーやリビングの窓にあたる開口部から窺う裏山の緑の借景が素晴らしく、目論見通りである。勾配天井が作り出す大きな空間も迫力だ。まだまだ枠組みだけでイメージとは程遠い状態だが、それでも充分に感動を覚えるのである。

この時点で、洗面所についてはもうひとつ具体性を欠いていた。洗面台ユニットがまだ決まっていないのだ。洗面台の品定めには大いに悩んでいたのだ。
当初は俄然、家具調の輸入物を希望していた。グッディーさんで用意しているモデルは多くの施主さんも採用しているのだが、近藤さんの珍しく煮え切らない様子が頭にこびりついている。これは恐らく機能面で国産品と差があるのだなと、ピンとくるものがあった。

そこで、国内のモデルで機能もデザイン性も良さそうなものを田代さんに探して頂くことにした。幅が広くて、表面の質感が良く、機能も先進的。お掃除も楽ちんなうえ座って洗面台に向かえるのが良いという我侭っぷりである。田代さんに汗をかいていただき、挙がってきたいくつも候補の中から要望にピッタリのモデルを見つけることができた。

横須賀ベルニー公園で毎年行われる大晦日~新年のカウントダウンイベントは、我々の恒例イベントでもある。しかし2012年は例年のそれとは違う。地元の住人としてここで年末年始を過ごす最後の年になるからだ。ちょっぴり寂しい気もする。

勇ましい海上自衛隊の護衛艦を横目に、晴れの朝は遠く対岸に横浜の港まで見渡せる。戦時中に作られたJR横須賀駅と田浦駅を結ぶ古い煉瓦造りのトンネルを、銀色のボディーに青いラインの列車がくぐり抜け、横須賀駅にガタンゴトンと入線する。
その裏側には丘が広がっていて、夜になると小山の上で山寺の灯りがチラチラとゆれる。僕が好きなもの全てがコンパクトに収まったジオラマのようなとても素敵な場所で、ここが結構気に入っている。国道16号線がくねくねと町を縫って走り、隧道に吸い込まれていく有様がとても可愛らしい景色なのだ。
年が明けて暫くした1月14日、三浦半島は珍しく大雪に見舞われた。

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第8話「東へ西へ」

工事は我々のイメージを形にすべくどんどん進む。
防水シートが貼られ、屋根も組まれ、バルコニーの土台や内部の造作と、単純な枠組みがゆっくり姿を変えていく。この時点で施主側が手配すべきものはあらかた片付いているので、こちらは案外のんびりしている。

しかしそうこうしているうちに、またもや大事件が。
なんとこれまでお世話になってきた田代さんまで、よんどころない事情により1月一杯で退職することになってしまったのだ。チーム崩壊、まさに青天の霹靂である。田代さんは家造りの実務については肝心要であり、意匠・設計の近藤さんと併せて双発のエンジンであった。キリッと取り組む近藤さん。対する田代さんはイイ感じに、うまい案配で事を運んでくれる絶妙のコンビである。我々にはうってつけで、つくづく担当者に恵まれたと頼もしく思っていたのだ。そこへまさかの事態。我々が乗り込んだ双発飛行機は、エンジンを2基とも失うことになったのだ。ここであえなく墜落の憂き目となるのか!?このあと、いったいどうなってしまうのか!

一大事である。

まさかのエンジントラブルでアルプスの山中深くに不時着、遭難とあいなるのか、、、不幸中の幸いは、最大の山場を越えていたこと。そして現場を見てくださる関さんの存在だ。机上のプランを作成している当初からの事情を知っていて、現場施行の流れをすべて受け持ってくださっているのがベテランの関さんであり、ひとたび建築のフェーズに入ったなら頼みの綱である。そして、営業のフロントには噂のワンダーウーマン、清水さんに立っていただき、ブログでお世話になっている齋藤さんもバックアップしてくださることとなり、急遽体制を立て直していただいた。さあ、もう目的地はすぐそこだ。再び動力を取り戻して、我々はゴールに向けた最終アプローチへと差し掛かっていく。短期集中ではあるが、それこそ寸暇を惜しんで、頭も体もフル稼働で必死に練ったプランである。チーム全員、出せる力はみな使った。必ずうまくいくはずだ。そして、ここまで辿りついたのは田代さんのお陰です。ありがとうございました!

1月19日に、待望のサッシが取り付けられたと連絡を受けた。早速現場の状況を見に行く。輸入のサッシは独特の雰囲気があって、シングルハングの窓は期待した通り、とてもアメリカンである。留め金をはずして窓を押し上げてみると、ずっしりと重い手応えだ。これは想像以上の重厚さ。掃き出し窓の開け閉めも、腰を入れて引っ張らないと動かないほどだ。軽いタッチでユーザーの負担を軽減するのが日本の設計思想であろうが、全く逆を行っている違いに驚く。そして、取っ手をクルクル回して開け閉めするオーニング仕様の窓には手をたたいてしまった。smalln’ cozyで見た「あれ」が、今目の前にある。特注で作ったミニ窓も実に可愛らしい。そしてまだポッカリと穴が空いているだけではあるが、ドーマーの様子もよくわかる。想像を掻き立てるディテールに興奮度Maxである。すごいすごい!天井も想像以上に高いぞ。窓は人体で言えば瞳のようなものか。そこに暮らす人間の生き方が戸外に伝わっていく、インターフェースになるのだろう。大切に考えたいものだ。

さて、施工が進むと机上ではわからなかった細かい調整のポイントが見えてくる。家具の配置を現場で具体的に想定してみると、微妙にバランスを再検討すべき箇所が出てくるのだ。「もう10センチほど壁をふかしましょう(材を重ねて厚みをかせぎ幅をもたせること)。」、「そうするとチェストの見映えが良くなりますよ。」とか、「この部分はもうちょっと高さをとっておかないと貧相になりますよ。」とか、現場で対応する以外にない細かい調整については、関さんが適確に助言をしてくれる。こうした経験値は、つまり体に染み込んだ、洗練された輸入住宅建築プロセスのエッセンスであろう。無形のノウハウからしか導き出せない解が、我々にとっては最も重要なのだ。そして、誰の目にも留まらない裏側とか、稼働しようがしまいが大勢に影響のないメカとか、将来のゲストを想定したちょっとした工夫とか、そういう些細な拘りこそが最終の成果に形として滲み出てくるものだと思うのだ。そのような思いを共有できる人たちと製作に携われるのは幸せなことだ。

我々はこの時期からカーテンを選びはじめた。
注文住宅のプロジェクトの一般的な手番からすると、カーテンの検討はあらゆる散財をし尽くしてからの取組みだ。どうしても、予算峠の胸突き八丁にさしかかってからとなる。どこをどうはたいても、充分な原資が出てこないのだ。

しかし我々は以前から、「お家のカーテンをあつらえるのなら逗子のオカザキにしたいね」と話し合っていた。
逗子や鎌倉、横浜まで、オーダーカーテンの店舗は少なくない。それぞれ特徴があって素晴らしいのだが、どこを当たってみても結論は「オカザキ」なのだ。エグ過ぎず、逆に洋裁店の手芸テーストにも陥らず、適度に華があり、フェミニンでバランスが良い。
逗子店を訪ねて今回のあらましを伝え、担当してくださった村田さんに何通りもの提案をしてもらった。資金の不足を工夫で補うため、最初から予算を伝えて基本的なスタンスを決めはしたが、迷いに迷うものである。100点満点から部分的に費用を抑えるダウングレードをしてみるなど、たくさんの引出しから我々に合ったプランを提示してくれる村田さん。

オーダーカーテンをはじめて経験する我々にとっては道しるべになる。生地選びも大いに悩む。オカザキには自社仕入れの素晴らしい輸入生地がたくさんある。どれも魅力的で、直接買い付けをしたものはとても買いやすい価格設定だ。
あれこれ悩みながらも、全室の窓を飾るデザインの仕様と生地の選択を終えた。だがリビングダイニングの生地だけがどうしても決まらない。多くの生地は厚手もレースも店頭にあるサンプルから選択したが、この場所にはもう少し違った雰囲気が欲しい。そこで施主支給の生地として、自分たちで調達をすることにした。

Morrisをはじめ、気になるものは片っ端から生地見本を取り寄せたり、他店まで足を運んで手にとった。代理店があればショールームも訪問して、膨大な見本帳と格闘した。
そうした中でわかったことがある。
特にプリント生地、中でもコットン100%素材の場合は、カタログや雑誌の2次元では素晴らしい見栄えでも、実際に目の前にするとまったくさえない場合があるということ。いや、むしろ我々の場合はほとんどがそうであった。とは言え、生地の風合いにまで拘れば、それは如実に価格に現れる。息切れしている僕にとっては、とても高価なのである。

しかし時すでに遅し、僕は例の「どうしてもあれが欲しい病」を発症しており、しかも重篤である。狙っているのは麻の混紡で、英国製の素晴らしいプリント生地だ。しかしながら、これを国内で調達するとなるととんでもない価格になる。そこで、どうしてもその生地のカーテンで窓を飾りたい僕は、英国の販売店に片っ端から連絡を取った。

国外とは取引しないとか、そもそも返事がこないとか、連戦連敗である。
しかし10社目くらいであったか、ようやく対応してくれる生地屋さんに当たった。こうして、勾配天井とドーマーで構成した大きなメインエリアを飾る生地の手配に算段がついたのだ。

外壁にサイディングを留め付ける作業が始まった。
ほんの一部分だけであっても、遂に最終形の片鱗が姿を現したのだ。もうすぐやってくる熱い夏の雲と同じ色の、青春時代に憧れた真っ白なサイディングだ。感激もひとしおである。そして、ここからは週を追うごとにお家らしさが増してくる。室内では断熱材をたっぷり仕込んだ壁に次々とパネルが打たれ、区切りが曖昧だったあちこちに間取りが姿を見せ始める。配管やユニットバスも組み込まれ、クローゼットなどの造作も徐々に進んでいく。
我々も負けじと、お気に入りを探して東へ西へ。さあ、思いつきから始まった一大プロジェクトもいよいよ終盤である。

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第9話「翼よあれがパリの灯だ!」

「いったいどうなってしまうのか!?」と、この8ヶ月間に亘りそう思わない日はなかった。止め処もなく湧き上がってくるイメージやアイデアを、そのままグッディーホームズに語りながら全力で駆け抜けてきた。

オーソドックスなアメリカンスタイルのラップサイディングに包まれつつも、英仏な感じ(と適当なことを言っているが)とか日本の明治時代の雰囲気とか、、、きっとプロから見たら恐ろしい要望の数々であったことだろう。
しかし、「道は開ける」である。
グッディーホームズは我々の要望にいちいち付き合ってくださった。総仕上げはもう目の前だ。

寒さが身にしみる2月の終わりには、真っ白なラップサイディングの外観が整った。寒色系のホワイトを選択したのは正解で、裏山の緑の濃さに際立って見える。
3月に入ると内部の造作工事、塗装と工程はどんどん進み、中旬になれば壁紙の仕上げにかかっていた。こうなると毎週末に現場にお邪魔するのが楽しみで仕方ない。壁紙は空間ごとにはっきりテーマを決めて選択したのだが、天井用のそれをあえて壁面に使ったり、普通はなかなか選ばれないような柄を取り入れていた。
グッディーホームズの皆さんに「通常はなかなかそういう組合せにはしません」と言われる大胆さで構成した箇所がいくつもある。本来はオプション扱いのところ、標準仕様で1000番台のハイクオリティーな壁紙が選べるキャンペーンをフルに活用したのだ。
選択が吉と出るのか凶と出るのかは蓋を開けてみなければわからないギャンブルであった。しかし、現場で我々が選んだ壁紙が貼られた様子を目にした瞬間に、全ての不安は吹き飛んでしまった。どこを見てまわっても素晴らしいの一言なのだ。そして丁寧な施工には二人とも大満足である。
関さん曰く、「いやー、こういう壁紙があったんですねぇ」。
あったんです!

さて、竣工に先立つこと1月となれば引越しの手配や、住宅の退去申請、ライフラインの移転と手続き諸々が必要である。
後者は簡単なもので、電話一発か簡単な手続きなどで終わってしまう。段取りさえついていればどうってことはない。
問題は前者で、引っ越し業者の手配は時期によって三倍も費用が違う。

小さいながらも一所帯が動くには2トンロングのトラックが必要で、3月の繁忙期には30万円以上にもなる。これが4月上旬を過ぎるとドーンと10万円台にまで落ちる。
この20万円の差は、建築に費やした総費用に比べていかにも小さく思えるが実は重いのだ。
これからお家を建てる方は、是非竣工のタイミングから逆算して着工することをお勧めしたい。今回、過去の引越しではいつもお願いしている数字の入った社名で有名な業者に依頼して、これで準備は万端だ。

カーテンをフルオーダーする場合は、竣工の3週間ほど前には現場採寸が必要だ。
サッシ図と立面図くらいがあれば充分だろうと思っていたのだが、注文住宅の場合はそうもいかないようで、実地に採寸をしないと都合が悪いそうだ。施工を担当して下さったのは逗子オカザキの土屋さんで、小柄な女性のどこにこんなバイタリティーがあるのかと思わせる仕事ぶりに感心しきりである。物腰も非常に丁寧かつ親切で、こういう方であれば安心してお任せできる。
カーテンの寸法やデザイン、素材使いについては事前にかなり細かく詰めていたのだが、壁紙や造作がほぼ仕上がった状態を目の前にすると感じ方が具体的になる。現場採寸というのはそのような最終形を目の前にした、最後の調整の機会でもあるのだ。

電気工事は造作などがかなり進んだ段階で行われる。
このタイミングで照明器具を取り付けるので、米国から取寄せた品物を現場に送る前に数量だけでも確認することにした。一抹の不安があったのだが、こういう悪い予感は大概的中する。
欠品が発覚したのだ。自分のやり方を貫きたければ、微に入り細に入り自ら手を尽くさなくてはならない。他人任せでは決して満足する結果は得られないことを、改めて認識した。

欠品には直ぐに手を打ち、すでに入荷している器具を先に取り付けることにして現場に送っていただいた。照明器具は厳重に梱包されているので、うっかり開梱すると元どおりに収めるのは至難の技であり注意が必要だ。
とりあえず頭数だけを確認し、現物をはじめて目の当たりにしたのは現場である。関さんと我々は荷解きをする度に感嘆の声をあげる。鉄でガッチリと組まれた本体は重厚そのものである。分厚い磨りガラスを彫って模様をつけたシャンデリアの傘も、素晴らしい質感だ。ブラケットは装飾が見事で迫力も充分。とにかく素晴らしい。
一方、輸入品は国産のように精密に加工されていない欠点があり、グッディーホームズは取付けに苦労をされたようだ。途中、国産品に変更するよう申し入れをされたがここで引き下がるわけにはいかない。この照明器具が設置されなければ、我々のsmallen’ goodyの意匠バリューは半減する。
ここを先途と関さんを大いに励まし、グッディーホームズには予定通りに進めてもらった。取り付け工事が多少難航したことから一部の機器に破損が生じたものの、修復等適切に対応していただき、遅れて到着したブラケットライトも含めて希望通りの照明計画が完遂できた。素晴らしい!

リビングの勾配天井は切妻になったドーマーの造作もあり構造が複雑で、関さんと大工さんは施工の現場対応にたいへんご苦労をされたそうだ。起伏の多い表面に珪藻土を含んだ壁紙を貼っていく工程も相当手間がかかったとのことである。その甲斐あって、複雑な凹凸で構成された壁面が織りなす光と影の素晴らしさにはしばし言葉を無くした。まさに思い描いていたような、ライトの明暗が刻む壁面の豊な表情が目の前に現れたのだ。

興奮冷めやらぬまま、転入の手続きをしに休暇をとってのんびり葉山町役場に足を運んだ。ツツジの花が綺麗に咲いている。春らしいポカポカな昼下がりである。遠くから長閑にプロペラ機のエンジン音が聞こえてくる。役場の窓口で新しい住民票と住民向けのずっしり重い大きな封筒を受け取ると、間もなく始まる葉山での新しい生活への思いも強くなる。初夏の訪れと新天地でスタートするこれからの我々のストーリーが、呼吸を合わせて二人三脚でやって来る。そんな実感が深まっていくのである。

さて、竣工の1週間前には心待ちにしていた英国Sanderson社製の素晴らしい生地が航空小包で届いた。3月の中旬過ぎでギリギリのタイミングである。

反物の荷姿で運ばれてきたので素人がバラすわけにもいかず、そのまま施主支給品としてオカザキに転送して早速仕掛っていただいた。鼻血も出ない懐具合ではあるが、綿麻素材の美しいプリント生地を長く楽しむために、裏地もしっかり付けていただくことにした。最後に壁を飾るカーテンは、インテリアのバランスやクオリティを高めもすれば台無しにもすると考えていたので毎日気がかりで仕方がない。取付けは4月10日に予定している引越し当日である。取寄せた輸入家具の搬入日でもあり、新居はこの日に一気に仕上がる格好である。

工期はやや遅れており、施主検査は3月29日、引渡しが3月31日と駆け足だ。施主検査は関さんとマンツーマンで端から端までじっくり確認させていただき、大小併せて50ヶ所の指摘事項が見つかった。中には調整に相当難渋しそうなものも含まれていたが、グッディーホームズはいずれも対応を約束してくれた(実際全てやり遂げてくれた)。

こうして施主そして工務店ともにへとへとになりながらも、我々の双発飛行機は全力を出しきって無事にゴールのパリ上空にたどり着いた。
眼下に見えるのは勿論、それは素敵な素敵な素晴らしい我が家である。

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